守りたい者がいる。 守りたかった者がいる。 二人は今、私と共にいる。 (いや―――違う) ―――――私が、二人の元に―――――『人』に―――――戻ったのだ。 気を抜けば倒される激戦の中、恐ろしく冷静な自分がいる。 暗いホールで絶える事のない火花。 自分と、そしてゼロとの間―――弾ける星は、刹那の攻防。 それを見据える自分がいる。 あの時には持てなかった視点。 怒りに熱く心を灼きながら―――どこかで冷え冷えと冴えていく。 研がれる感覚を支えるのは―――立ち返れし己の記憶と思い。 赤い棍と、銀の刃―――あの回廊でも交えた光。 忘れ得ぬ戦い。 だが―――――結末までもここに再現する気はない―――――!! ギンッ!!! 回廊に響くのは、金属の咆哮。 「う・・・っ!」 「・・・ふっ!」 打ち込みを真正面で受け止められ、逆に弾かれる。 衝撃に腕が痺れるが、そんなものにかまってはいられない。 (スバルは―――!?) 姿と気配が遠く消えている。 どうやらここを離れられた様だ―――――ならばっ! ギ・・・ンッ!! 渾身の力で再び打ち込む。 中心で交わる三本の得物。 「―――弱い、ですね」 「くっ・・・!」 腕がたわむ。 人外の力で押し戻された刀が、自分の喉に迫る。 「無駄な戦いですよ・・・お止めなさいアルテア」 金の瞳が自分を覗く。 「無駄では・・・ないっ!!」 「無駄ですよ」 間髪入れぬ言葉と同時に、一瞬―――拮抗が崩れる。 途切れる重さ。 惹かれる様に、前へと揺れる――― (―――――!) ドンッ!! 上体の泳いだ刹那に、ゼロの蹴りが腹に入った。 「・・・・・!!」 声も出ないまま床を滑る。 曇る視界。 衝撃に鈍る感覚―――それでも感じる追う影―――風切り音! (!!) バンッ・・・! 床に手をつき、反動で離れる。 ・・・バグンッ! ―――退いた半瞬後にその床が砕け散る!! 「・・・・・」 陥没した回廊を挟み、再びの対峙。 居合に刀を構える私―――自然体に、しかし隙なく佇むゼロ。 「無駄ですよアルテア」 手にした棍を振り、破片を落とす。 優雅ですらあるその姿。 「貴方が私に刃向えるのは、私が貴方に力を与えた故」 ―――――強い――――― 「その剣技も、その体術も、全て私の手により磨かれたもの」 「・・・そうだ・・・だが・・・それでも私は・・・・・!!」 圧迫に抗すべく私は反駁する。 ―――言葉は、事実。 否定のできぬ事実。 奴は・・・ゼロは、十七年という歳月の中で私に様々な事を教えてきた。 より役に立つ≪道具≫として。 ガルファに益をもたらす者としての教育。 ある意味、奴は―――――私の≪師≫。 だが。 それでも。 無造作に―――そう見える歩みで―――間合いを詰めてゆくゼロ。 その手には、再び伸ばされた朱の棍。 (―――それでも勝たねばならんのだ!!!) 「お止めなさいアルテア・・・貴方はまだ我らに必要。戻りなさい、我らの≪黒騎士≫に」 「断る!!」 優位という高みからの宣告に、鋭くきっぱりと拒絶を返す。 「私も―――そしてスバルも!!もはやお前達の元になど行かぬ!!」 勝たなければ私は戻れない。 ―――スバルを人の世界へ戻せない。 「私達が“戻る”は≪人≫の世界ぞ!!断じて―――」 叫びは怯懦を封じる為―――そうしなくば奴と戦えない。 「―――戻る所は断じてガルファにあらず!!!」 同時に、床を蹴る―――三度めの。 「懲りませんね貴方も!!」 ゼロの笑顔が深くなる。 絶対の自信――――― (―――――それが貴様の命取りだ!!) ガガァァッ!!! 交錯の衝撃が肌までも震わせる。 だが―――今度はっ!! 「っ!!」 ゼロの双眸に驚愕が映る。 奴の持つ棍と組み合っているのは―――――『鞘に収まったままの』刀!! 「おおおおおっ!!!」 勢いのまま鞘を棍に押さえつけ―――反動で隙間が開いた瞬間、今度こそ抜き放つ!! 「アルテ・・・!!?」 「貴様はこの場で消えてもらう!!!」 ビィィィィンッッ!! 耳が痛くなる反響と共に、順手の側での切りつけが入る! 「ぐっ・・・!」 僅かだができた奴の隙に、半ば無理やりに棍を蹴り飛ばし――――― ドンッ―――――! 「がっ・・・・・!?」 金の眼の驚愕はそのままに、奴の体が大きくしなる――――― ―――――逆手に持った私の刀が、ゼロの身体を串刺しにしていた――――― ・・・そして。 「・・・・・っ!?」 ―――――刀を引き抜いた私の眼に、爆砕するゼロと回廊が見えた。 | |||